東大和病院 脳神経外科 上條 貢司
当院で行っている脳卒中の外科的治療法の一つにバイパス術があります。これは正式には頭蓋外・頭蓋内バイパス術(EC-ICバイパス)と言い、頭皮を養う頭蓋外の血管を、脳を養う頭蓋内の血管につないで血流を補う手術です(図21-23)。
つなぐ血管の名前をとって、浅側頭動脈・中大脳動脈バイパス術(STA-MCAバイパス)とも呼ばれます。一般的にはCEAと同様に脳梗塞の予防法として広く行われ、脳につながる血管が狭くなったり、詰まったりすることで、脳血流が下がっている時に行います。手術では太さが1mmあるかどうかの血管に約1.5mmの血管をつなぐべく、10-0と言って髪の毛より細い糸で20針以上縫う必要があるため、高度な技術を要します。(図24-26)
当院では、現在まだ有効な治療法が見つかっていない、進行性の急性期閉塞性疾患(進行性脳卒中)に対しても積極的にCEAおよびバイパス術を行っております。
またこの治療は、もやもや病(注)の脳梗塞予防や、通常の開頭クリッピング術や血管内コイル塞栓術では治療が難しい脳動脈瘤の治療としても使われます。
15mmを超える非常に大きな動脈瘤(大型ないし巨大動脈瘤:図27)や、逆に血豆状の小さな動脈瘤(注:図28)、血栓化しているものや(血栓化動脈瘤:図29)、さらには血管が裂けることで生じるもの(解離性動脈瘤)などがあげられ、これらの脳動脈瘤が破裂しないよう治療するには、瘤がついている血管(母動脈)自体を遮断し、バイパス術を行い、別の道を作ることで脳に血流を送ってあげる手術方法です。通常は頭皮の血管(浅側頭動脈)を使用しますが、より多くの血流を送る必要がある場合は、腕の血管(橈骨動脈)を用いてバイパス(High-flowバイパス)することもあります。
脳卒中の治療は日々進歩し、これまで治療不可能であった多くの命を救える時代になっていくものと思います。しかし、現在はt-PAで救える患者さまは脳梗塞全体のごく一部であり、脳梗塞の予防が重要であることに変わりありません。またクモ膜下出血を起こせば、手術が成功したにも関わらずその後脳梗塞によって重大な後遺症を残すことも依然多く、可能な限り破裂する前に脳動脈瘤を治療することが望ましいと考えられます。
脳卒中を予防するためには、高血圧をはじめとする危険因子の管理と、脳梗塞の危険信号であるTIAを見逃さないこと、脳梗塞発症や再発の危険度が高い頸動脈の高度狭窄症があれば早期に治療すること、脳動脈瘤は破裂前に治療することが肝要です。